紙で受け取った領収書の電子化に,個人事業者としてコストメリットはあるのか

結論は,ありません.
領収書は日付順にまとめて1ヶ月ごとにA4封筒にまとめて放り込んでおきましょう

e-文書法

wikipedia:e-文書法 は電子文書法とも呼ばれ,税法および商法で保存が義務付けられた文書を紙だけではなく電子化して保存することを認めた法案です.2005年4月から施行されています.具体的な技術要件はe-文書法には盛り込まずに,個別省庁において要件を適切に設定することになっています.

領収書の処理に使えるか

e-文書法は紙ベースの書類にかかるコスト低減を目的としたものです.そこで,個人事業主としては税法および商法で保存すべき書類のうち量が多くて管理が手間である"領収書"の電子化を検討しました.

領収書の電子化に求められる条件

このあたりの情報は http://www.b-team.jp/docuworks/2008/03/vob20080301-e.html にまとめられています.
まず金額が3万円以上の領収書は,原紙の保存が必要です.また電子化したデータには,改ざんの検出,書類発行時間の記録のために,タイムスタンプサービス (例えば, PFUタイムスタンプサービス | トップ | PFU)が求められます.
電子化に求められるスキャナの性能は,たいていのスキャナが満たしますが,e-文書法に対応する取り込み条件でスキャンを開始する一発ボタンを備えたスキャナも販売されていました PFU、「e-文書法」に対応したコンパクトスキャナ

タイムスタンプのコスト

タイムスタンプ発行の認定制度があるっぽいです タイムビジネス認定センター | JADAC.日本国内では5社が認定されています.これらのサービスのコストは,1万スタンプ程度のバルク販売(1スタンプあたり10円程度),もしくは年定額(200万円程度)でした.

まとめ

個人事業主が受け取る領収書の数は年間せいぜい1000枚に届かない程度です.そのために,(最低数量1万スタンプ,1スタンプ10円だと)年間10万円のタイムスタンプサービスの購入をしても,コストと手間低減のメリットはまったくありません.

考察

個人事業主における領収書の電子化について,法律が求める技術要件を満たすためのコストを調べ,その効果を明らかにしました.法律のもともとの趣旨はコスト低減ではありましたが,タイムスタンプのコストのために,個人事業主にはコスト効果はないことが分かりました.
今の法律は電子データと紙データが混在した過渡期のものであると感じます.法律の立て方に,紙データと電子データの整合性をとる目的なのか,それとも電子データを主として紙データを副として,主である電子データの証明(改ざん防止,タイムスタンプ)を目的とするのか,ものの考え方がごちゃっとしていると私には思えました.
確かに紙データの閲覧とデータ保存能力はとても高いです.例えば,何年何月の領収書を見たいと思えば,紙ならば時間軸でファイリングされた書類をぺらぺら見ていけばすぐにたどり着きます.電子データでは保存方法が悪ければ検索に時間がかかります.ですが,電子データのみで業務処理を進める企業群もあり,それらは主である電子データをわざわざコストをかけて紙データに落としているわけです.
紙データと同程度に扱いが簡単だと感じられる技術があれば,このあたりの仕組みは随分とシンプルなものに置き換えられるのではないかと思います.法律の実施方法は現在の技術水準から決められていますが,ここに新たな技術開発のニーズがあると思います.

とりあえず,タイムスタンプ認証コストを1/10000 円にする技術は開発しておいて損はないなと思います.逆にタイムスタンプのコストがその程度に落とせるように認証制度の条件自体が設定されていることが,元になる法律の趣旨に沿う,社会的にメリットがある方なのかなって思います.